演出家鼎談~3人の演出家が語る演劇・復帰、そして作品のこと~


 

沖縄・復帰50年現代演劇集inなはーとで上演するのは「復帰」をテーマにした3作品。どの作品も今回は再演。それぞれの劇団が向き合ってきた「演劇」とは、「復帰」とは。演出家3名で鼎談を行いました。

 

<参加者>

新井章仁(あ) 

劇団ビーチロック「オキナワ・シンデレラ・ブルース」脚本・演出

1980年 大阪生まれ・沖縄暮らし19年

 

真栄平仁(ひ)

劇団O.Z.E「72’ライダー」脚本・演出

1969年 沖縄・具志川(うるま市)生まれ

 

当山彰一(と)

劇艶おとな団「9人の迷える沖縄人」演出

1966年 沖縄生まれ東京育ち 

 



 

「復帰」についての作品をなぜつくったのか?

 

真栄平:当山さんの「劇艶おとな団」の作品は?

 

当山:『9人の迷える沖縄人』という作品ですね。実は県外の演劇関係者の方から「沖縄の現代演劇の人たちはなぜ沖縄戦を扱わないんですか?」って言われたんです。

 

真栄平:まー、ダイレクトな質問ですね。どストレートな。

 

当山:自分は先輩方の沖縄戦を扱った芝居を観てきました。でも、体験した方の描写は怖かったし、リアルだった。だから観終わった後のショックが大きかったんです。で、経験していない私は何をどうやって伝えていいのか分からなくて。

 

真栄平:なんか軽はずみに取り扱えないというかね。

 

当山:そうそう、時期尚早かなと。いつかは携わらないといけないと思いながら、他に沖縄から発信できるものがないか考えていたんです。そうしたら経験したことのある「復帰」はと思ったんです。“国が変わる“なんてなかなか無い体験ですよね。琉球から日本、そしてアメリカから日本、世替り何回したのか。近代史で僕らが凄い経験をしたのが復帰だなと、だからこの作品を作ろうとなって。

 

真栄平:僕はですね、『72‘ライダー』という作品をちょうど10年前につくったんです。復帰後、沖縄の人が国会議事堂の鉄柵にバイクで突っ込んで亡くなったというニュースが「なんじゃその話は?」とずっと記憶に残ってて。その人の想いに引っかかってたんですよ。調べ始めたら、彼は「コザ暴動」にも参加していて、何千人といたなかで逮捕された10人に入ってるんですよ。ごちゃごちゃが終わった後に本土に行って、バイクで突っ込む…。それと72年生まれの人たちのことを“復帰っ子”っていう言い方をするじゃないですか。復帰っ子が生まれてから40年。等身大の40歳は今、こんな悩みがあるよとか、沖縄の40年、人間の40年をリンクさせながらできたらと思って。

 

新井:僕は「復帰」を題材にした演劇に最初に関わったのは、『屋良朝苗物語』の演出助手と映像制作を担当したことです。屋良朝苗さん、復帰の時の琉球政府行政主席で、復帰後の初代知事。

公文書館に行って、写真とか映像を集めたり資料を見るなかで、こういうことかっていうのを知ったのが大きかったですね。自分の劇団でつくる話としては、まず復帰があったわけじゃないんです。時代に翻弄されながらもたくましく生きる登場人物というテーマがあって、時代背景をどうしようといった時に、復帰前後を取り上げてみようということで。

 

真栄平:当時のことを調べれば調べるほど、今の僕らがどんだけのらりくらり生きてるかっていうことですよね。善い悪いとか、政治的な意見がどっちかというよりも、あの時代の人はめちゃめちゃ熱いというか、自分のすべてをかけて、人によっては命もかけて、沖縄をよくしたいっていう気持ちが強かったんだなって思いますよね。初演の時の反応はどうでした?

 

当山:「なぜ沖縄戦を扱わないのか?」そう質問してくれた関係者が見にきてくれて、評価が良かったんです。

それで、鳥取の演劇祭に呼んでくれたんですね。こういうお芝居を久しぶりに観たという感想をいただきました。で、観た方の感想の多くが、「そういえば、沖縄はアメリカだったよね・・・」だったことに驚きました。これは戦争体験者が少なくなって、大戦のことが忘れられていくのと同じように、復帰も忘れられていくなって感じました。だったら、芝居を通して繋いでいかないと・・・っていうのはすごく感じましたね。

 

 

できるだけ笑いがいっぱいあったほうがいい

 

真栄平:エンタメを通じて若い人たちに分かりやすく、響くようなやり方で伝えきれるかなっていうのは思いますね。若い人って硬いやつは苦手なんですよね。分かんないとか難しいとなってしまう…。戦争とか復帰とかいうだけで、ひくとういうか。

今後の世代にこういうことがあったんだよっていうのをエンタメとして記憶に刻めないかなというのがありますよね。ちなみに、僕らの『72‘ライダー』で一番多い感想はですね、「本物のバイク使ってる」(笑)。

 

当山新井:あはははは。

 

真栄平:僕、全然それでいいんですよ。実は、バイク屋さんに頼んで、わざと爆音にしてもらってるんです。小学生の感想は「バイクの音が超怖かった」。

“刻む”イメージでいいかな、と思っていて。大人になって、バイクの怖ろしいあれ、何の芝居だっけな。それが復帰に関するバイクを使った事故の芝居なんだなっていうところにつながってくれたらいいかな。

僕、ちっちゃい時に学校で『アンネの日記』を観たんですけど、内容とセリフ、ほとんど憶えてないです。でも一番最後のシーンが、アンネたちが隠れている部屋にナチスが来て、ドアをガンガンガン!って叩いて終わるんですよ。もう忘れられなくて。演劇の持つ力っていうのは、断片的でもいいから、何かグサッと心に刺さって、後であれが何だったのかなみたいなことにつながればいいかな。だから、できるだけ笑いがいっぱいあったほうがいいって思うんですよ。

 

新井:僕は観客の反応というより、初演をやった自分の思いではあるんですけど…。『オキナワ シンデレラ ブルース』は寂れた音楽バーの貧乏娘がアイドルとして、スターとして上京するっていう話。

登場人物に、シンデレラでいうと魔法使いのおばあさんの役どころが、夜の街のマダム。その役をうちなー芝居の大御所の真栄田文子さんにお願いすることになって、初めて挨拶行った時に、僕が台本を大和口で書いてたところを全部沖縄口でさせてほしいと言われました。昔、うちなー芝居の化粧係をしていたマダムという設定なんですけど、まさに役どころとご本人の経歴が重なって、戦後、何も無くなった時に、眉墨はシンメーナーべの底の煤で、頬紅は赤瓦を削ってやったんだよーっていうお話を聞くことができたのが印象的でしたね。

 

真栄平:だいぶリアリティが増したんですね。

 

新井:そうですね。ちなみに今回は、真栄田文子さんに方言指導をしていただく形で那覇出身の劇団メンバーが演じることになったという意味では、つないでいくみたいなところに挑戦したいなと思ってますね。

 

真栄平:僕ら芝居をつくる時に言葉って大事ですもんね。沖縄口にしてもそうですし、ふだん使ってる口語にこだわってるところがあるんで。“ふらー”とか“ばんない”セリフに入れてる。それが観てる人のリアリティにつながればいいかな。

 

当山:目標は“デートで観にくる芝居”でしたね。

 

真栄平:そうなればいいかなと思ってますけどね。

 

当山:『9人の迷える沖縄人』にもうちなー芝居の役者さんが出てて、鳥取公演する時に「どこまで大和口にします?」って聞かれたけど「なるべく沖縄口で良い」と。

 

真栄平:いいと思う。

 

当山:多少はね、要所要所わかるように単語は変えてもらって、これが沖縄だよって伝えていくことが大事かな。おとな団は沖縄をキーワードにした作品をやっていくのがテーマみたいなことになっているので、東京の物語をやってもいいんですけど、せっかく持ってるものを使って発信できたら。

 

真栄平:僕も演劇を始める時に、なんで沖縄の人が標準語でやるんだろう? しかもちょっとなまってるし、と思ってた。だから僕が書くんだったら地元の友だちが使うような言葉づかいでやらんと、俺の友だちが観ても意味が分からんはずっていうのがあって、沖縄のリアルな言葉にこだわっていきたいっていうのと、難しいことは笑えたほうがいいなぁと思うんですよ。辛かったり、難しかったりすることを、なるべく笑いを混ぜながらできたらいいなと思ってるところがあって、笑いながら、切ないねとか、沖縄って大変だねっていうふうに、思ってくれたらいいかな。

 

若い世代や移住してきた人にとっての入り口

 

新井:僕は復帰当時生まれてないですし、しかも沖縄出身じゃない。ある意味、客観的な立場から調べたり、勉強してきたことっていうのは、もしかしたら若い世代や移住してきた人にとって入り口という意味があるのかなとは思ってます。初めて沖縄の歴史に触れたり、復帰のことを知る入り口的な作品になればいいなと思います。

 

真栄平:これね、新井さんだからできることですよね。客観的に観るとか、沖縄に住んでみて、とか。そのほうが本土から来る人とかわかんない人にとっては、逆に分かりやすいかもしれない。

 

当山:ちょうど三者三様の立場で、今回おもしろい。ずっと沖縄にいる仁さん。新井さんは本土から来られた。僕は両方っていう目線で描いてるのがおもしろい。

 

真栄平:今回の「演劇集」の意味とは?

 

新井:ちょうど話が上がっていたように、作り手が三者三様の立場から描いてるということと、それぞれ描いている時期も若干違うのかなと思いますね。僕の場合、復帰から一年経った頃を舞台にしてるので。

 

当山:うちは復帰前ですね。沖縄の人たちが復帰するとどうなる?というザワザワを描いている作品です。

 

真栄平:嘘も本当もいろいろ言われてたんですよね。

 

当山:復帰したら雪降るって言われてたんだよ(笑)

 

真栄平:『9人の迷える沖縄人』はまさに今の沖縄を表していると思うんですけど、いろんな立場の人がいて、でも簡単にAかBかではなく、AだけどBもわかるし、苦しいよなーっていう。今の沖縄が凝縮されてる感じです。

復帰50周年をきっかけに、沖縄にもこんな一所懸命現代演劇やってる劇団があって、地元のことを取り上げて、響くように日々、エンタメつくってるよっていうのが伝わればいいですね。

 

新井:ちょうど50年前に復帰の式典が那覇市民会館で開催されましたよね。場所は変わってこの「なはーと」で復帰50年の節目に、我々が演劇をできるってことがすばらしいことですよね。

 

真栄平:あんまり押し付けがましくなく、楽しみながら、笑いながら、時には感動して泣きながらとか、悔しがりながら、観て、沖縄のことを知ってくれたらいいかな。

 

3作品ともかたくるしくはない

 

真栄平:そうですね。

 

当山:エンターテイメント性もかなりあったりする。3つの作品の違いにも触れてもらえると嬉しいな。

 

真栄平:ぶっちゃけ言うとですね、あれ10年前に書いたんで、めちゃくちゃ書き直さないといけないんですよ。時事ネタがいっぱい入ってて。どうしようかな…。書きません?(笑)

 

当山:はははははは。

 

新井:僕も書き直しが…。ある意味、前回観た人もむしろ新作と思ってもらっていいですよね。